研究内容と対象


金属材料などの結晶性材料では、表面や粒界、転位など様々な微細構造が発現します。この微細構造が、強度や延性、触媒活性などの材料特性を支配することから、新材料の開発に向けたナノもしくは原子スケールでの解析が求められています。

本研究室では、原子スケールでの微細構造解析が可能な透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることによって、結晶性材料の特性と微細構造の相関を明らかにし、新材料の開発へと結びつけるべく、研究に取り組んでいます。



図1 結晶性材料中に発現する様々な微細構造


主な研究テーマ


本研究室では、炭素鋼やステンレス鋼などの鉄鋼材料や、自動車用ボディパネル材などに使用されているアルミニウム(Al)合金、燃料電池に必要不可欠なプラチナ(Pt)ナノ粒子などを中心に、TEMを用いた微細構造解析を行っております。また、不揮発性メモリなどの半導体デバイスの界面や、燃料電池負極材のSEI被膜(表面構造)、各種触媒ナノ粒子の構造などの微細構造解析も行っております。

最先端のTEMを用いることで、Al合金中に発現したナノ析出物を原子スケールで観察すると同時に、析出物を構成する元素種を明らかにすることも可能になります(図2)。

このナノ析出物がAl合金の強度を高める主要因であるのですが、原子スケールでの組成と構造を明らかにすることで、より微細に高密度に析出物を発現させるための材料組成を提示することが可能となります。



図2 Al合金中に数十nm間隔で分散した
ナノ析出物の原子分解能TEM解析
*https://doi.org/10.1038/s41598-018-35134-8


また、金属材料中の添加元素が集積することで形成されたクラスターを、TEMにより解析する研究にも取り組んでいます(図3)。

クラスターが、ランダムに添加元素が集積した構造体だけでなく、短範囲での規則構造を有して存在する可能性も明らかになりつつあります。近年注目されているハイエントロピー合金に見られるように、クラスターが金属材料の特性を飛躍的に高める可能性が提案されてきており、本研究室では、その起源の一端を解明することに取り組んでいます。



図3 鉄鋼材料やAl合金中に発現しているクラスターの原子分解能TEM解析.
Al合金中において、図2にみられる析出物のユニット構造を有したクラスターの存在が確認される.
*https://doi.org/10.1016/j.actamat.2023.118919
*https://doi.org/10.1093/micmic/ozad067.141